01.アンダンテ

―――歩いているときは
   何て遅いスピードでしょうって
   思ったのよ

   だけどね
   後ろを振り返ったらね
   何て速いスピードだったんでしょうって
   思ったの―――


祖母が遠い目をする

―――歩いているときは
   気付かないの
   どれだけ歩いたかなんて

   振り返って
   初めて気付いたの
   こんなところまで
   来てしまったんだなぁって―――

その間も時計の音が部屋を刻む
祖母は震える手で蜜柑を剥く
立ち止まることの出来ない旅は
アンダンテの速さで
祖母を遠くへ連れて行く

顔に刻まれた皺は
使い古した画用紙のようだ
弱った身体には
アンダンテの速さは速すぎる



*(アンダンテ【andante】:(イタリア)音楽の速度標語の一。モデラートとアダージョとの中間の速度。歩くくらいの速度。また、その速さで演奏する曲や楽章。by:大辞林) 戻る